男性更年期
男 性 更 年 期
更年期とは加齢に由来する性ホルモンの減少が進行しホルモンの欠乏状態に至る時期であり、更年期障害は性ホルモンの欠乏によって種々の症状が出現する事を言います。つまり、この時期以降は生殖能力の低下もしくは廃絶に至る事を意味しています。今までは更年期と言えば女性の問題であり、閉経つまり生殖能力の廃絶として考えられてきました。女性に比較し男性は死ぬまで精子を作る事が出きる、70才を越えても生殖能力はあるのだから男性には更年期などは無い、と安易に考えられてきました。しかし近年女性と同様に男性にも男性ホルモンの減少により生殖能力が低下し、さらにホルモンの欠乏に由来する種々の症状が出現する更年期障害が存在していることが理解される様になりました。この事を女性の更年期と区別して男性更年期と呼ばれます。ただし女性の更年期に比較し、男性更年期の場合は症状の出現が目立ち難いため最近まで注目を浴びることがありませんでした。
T.更年期と更年期障害
1.更年期
加齢に由来する性ホルモンの減少が欠乏に至る時期
2.更年期障害
性ホルモンの欠乏により種々の症状が出現
U.更年期障害
1)女性更年期 Menopause
・閉経をはさみ前後のほぼ10年間に症状が出現
・かなり明確な症状を伴なう
・急激なホルモン(エストロゲン)の減少が原因
2)男性更年期 Andropause or Male menopause
・40代から徐々に出現
・症状が明確ではない
・緩慢なホルモン(テストステロン)の減少が原因
V.性ホルモンの加齢による変化
*男女共に性ホルモンの分泌は20〜30才代にピークを迎えます。その後男性はなだらかに男性ホルモン(テストステロン)の分泌が減少するのに比較し、女性は40才後半から50才代の間に急激な性ホルモン(エストロゲン)が起こります。この為にホルモンの欠乏により発生するいわゆる"更年期障害"の発症の仕方が男女間において大きく異なる原因なのです。
男性更年期概念の歴史
男性更年期は1939年、アメリカのウェルナーが報告を行ったのが最初と言われています。しかし最近まで男性の更年期障害は女性の更年期障害の影に隠れて注目される事はありませんでした。その理由としては女性の場合は閉経前後の数年の間に女性ホルモンであるエストロゲンが急激に減少するため症状の発現が顕著である事に対し、男性では30代から男性ホルモンであるテストステロンが時間をかけて徐々に減少するため女性更年期に比較し症状の出現が緩慢であることがあります。また男性更年期にはうつ病と類似した症状を認めるためうつ病と診断されることが多かったこと、血気盛んな男性が年齢と共に落ちつく事を当然とする風潮が存在すること、体力や気力の衰えは男性側からは申告し難い等から、症状が顕著でさらに訴え� ��多い女性の更年期障害に比べ"大したことではない、歳なんだから"程度の認識でしかありませんでした。
近年先進諸国において40〜60代の男性の脳血管障害、心血管障害の増加と共に気分の落ちこみ、やる気の減少、不眠、性欲減退、性機能低下等の症状を訴える人が増加し、加えて男性ホルモンの欠落によると考えうる症状の中年男性が増加し、更には自殺が急増している事が指摘され"中年の危機(Middle Age Crisis)"と呼ばれるようになり、一躍脚光を浴びるようになりました。その結果かつて中年男性の抑鬱症状の主たる原因は"うつ病"もしくは"うつ状態"であるとされて来ましたが、その中にはかなりの男性更年期が含まれている事がわかってきました。
更年期は人間に特徴的
太古の時代、ヒトの平均寿命は20才から30代であり、男性も女性もほとんどが更年期を迎える事無く死亡していました。最近関西の某有名大学の霊長類研究所で高齢のメスザルが妊娠し話題となりました。霊長類研究所のメンバー達はまさか人間に換算すると60才以上になるサルが妊娠するとは考えてもみなかったと話していたそうです。しかし動物の多くは生存している間は生殖可能である、つまり逆説的にヒトのように繁殖可能期間を超えても長期間生存する存在は動物一般において稀な存在なのです。動物の年齢も単純に平均寿命から逆算して人間の年齢に当てはめただけのものであり、実際の生物学的年齢を反映しているわけではありません。我々の回りにも生殖が死に直結する場合が数多く認められます。典型的な例がサケの産� ��です。サケは繁殖を行った直後にオスもメスも死に絶えます。通常は生殖や子育てを終えて生存し続ける個体は、その個体が属する種にとって存在価値が無い、あるいは無用なエサの消費に繋がり、種の存続にとって負担になる存在です。しかし現在のヒトにおいては繁殖に関与できる年齢をはるかに越えて生存する事が普通であり、この余剰な生存期間がヒトの社会全般に大いに貢献していることは間違い無く、動物の中では特異な存在と言って良いでしょう。つまり繁殖の期間から開放された更年期以降こそがヒトを他の動物から分かつヒトらしい期間なのかもしれません。
成人男性における男性ホルモンの存在意義
男性ホルモンは男性的な骨格や筋肉質の体を作るのみならず、持久力を高め、更には動脈硬化を抑制し、心筋梗塞等の心臓や血管に由来す病気に対するリスクを減少させます。中年男性におなじみの下腹の出っ張りや筋肉や持久力の衰えはまさに男性ホルモンの減少によるものです。また筋肉の減少による基礎代謝の減少、脂肪組織の増加も起こってきます。また男性の精神に対しては活動的、ある意味では攻撃的な性格を形成かつ維持するホルモンです。トランスパーソナル心理学で有名なケン・ウィルバーは男性ホルモンの存在意義を"Fight & Sex"と現しました。太古の時代から厳しい環境の中で生存競争を勝ち抜き、集団の中で確固たる地位を確保し、自己の子孫を数多く残すことを目標とした男性にとって強靭な肉体と共に活動的もしくは攻撃的な精神は必須であり、その維持のためには豊富な男性ホルモンの供給が必要でした。 若い頃非常にアグレッシブな性格の男性が中年になるとおとなしくなり、"人間が出来てきた""人間が丸くなった"と言われるようになることをしばしば耳にしますが、この現象は主として男性ホルモンが年齢と共に減少してきた事に由来します。有名なキリスト教の教父であるアウグスティヌスが若い頃放蕩を重ね、中年近くなり信仰に目覚めた事を、単純に "単なる男性ホルモンの欠乏に由来する現象"と説明することが可能です。つまり男性は男性ホルモンが豊富であるが故に男性であり、"男らしさ"は男性ホルモンの賜物といえます。
男性ホルモンと暴力犯罪
ただし、過剰な男性ホルモンの供給は男性を"暴力"に導きます。ウエイトトレーニング等で筋肉を強化するために男性ホルモンに属する蛋白同化ホルモン(アナボリックアンドロゲンステロイド;AAS)を使用している男性選手は暴力事件を起こす可能性が高くなる事が知られています。また暴力犯罪と男性ホルモンとの関係も良く研究されており、暴力犯罪を繰り返す犯罪者は男性ホルモンの分泌量が多い傾向にある事が知られており、更に女性の暴力犯罪が少ないことの根拠となっています。また何らかの原因で胎生期に通常よりも多くの男性ホルモンにさらされた女性は暴力的であることも知られています。またAASを使用している女性ボディビルダーの6割以上が攻撃的な性格になった事が報告されています。
痛みセンター、サウスカロライナ州
スポーツ界における男性ホルモン
男性ホルモンであるAASは筋肉や骨格を強化し持久力や闘争心を高める事からスポーツ界でドーピングに使用される薬として有名です。しかし過剰な男性ホルモンの使用は選手生命を縮めるばかりではなく、急死という悲惨な事態を招きかねません。アマチュアスポーツ界では男性ホルモンの使用は禁止されていますが、現在でも検査に引っかからない新手の薬が出現しており、それを見つけ出す検査とのイタチゴッコを演じている事は周知の事実です。アメリカ女子スプリンターのゴールドメダリストの一人は以前より蛋白同化ホルモンを使用したドーピング疑惑がありましたが、しかし真実が明かにされないまま数年前急死しました。彼女の死の原因は蛋白同化ホルモンの副作用ではないかと疑われています。また一時世界的に有� ��になり、軍団と呼ばれた隣国の女子陸上選手団も女性としては異常に筋肉質な体、低い声、やや盛りあがった甲状軟骨(喉仏)から蛋白同化ホルモンによるドーピングに間違いないと言われていましが、その後結局彼女達もいつのまにか消えてしまいました。プロスポーツ界では蛋白同化ホルモンの汚染が進んでおり、特にアメリカではアメリカン・フットボールや大リーガーの選手たちの濫用が問題になっています。日本では相撲界での疑惑が以前より噂されており、かつての肉質な横綱あたりから使われ出したと言われといます。以前若い横綱が急に体が大きくなり、ニキビが背中に多発した頃異常な行動によって一時ワイドショウ等で話題になったことがありましたが、これも蛋白同化ホルモンを過剰に使用したことよって引き起� �された一過性の不安定な精神状態に由来するのではないかと考えられています。
ジョン・F・ケネディとステロイド
AASの精神的副作用としては気分変調、焦燥感、攻撃性の亢進が代表的ですが、半数以上に躁状態が認められています。ジョン・F・ケネディが周囲の反対を押し切って、ダラスでオープンカーでパレードを強行したのは皮膚病の治療でステロイドを使用していた事が原因ではないかという話しがあります。医療に使用するステロイドもAAS同様の基本骨格を有しているため共通した副作用が認められ、多量に使用した場合には副作用としての躁状態や多幸症(幸せな気分、楽観的な気分になる)はしばしば認められます。病気の治療目的に使用した薬の為にケネディは暗殺されてしまったとしたらなんと悲惨な話しでしょう。
男性更年期の症状
男性更年期はかつて精神神経症状中心の診断を行っていた為うつ病と診断される事が多く、抗うつ剤による治療を受けることが多かったようです。しかし男性更年期には精神神経症状のみならず性機能症状、泌尿器系症状、血管運動神経症状、消化器症状、運動器官症状等の多彩な症状を合併しています。特に不眠、不安やイライラ等の精神神経症状、勃起不全や性欲低下等の性機能症状、頻尿、殘尿感等の泌尿器症状の3つを三大症状と言います。その他には、手足の痺れ、発汗、動悸、食欲不振、肩こりなどの症状に加え易疲労感や倦怠感等の全身症状も認められます。精神神経症状以外にこのような症状を合併している場合まず男性更年期を疑わなければなりません。
男性更年期の症状 |
|
|
|
|
|
|
@)精神神経症状 | 不眠 | 不安 | イライラ | 頭痛 | 抑鬱 | 焦燥感等 |
A)血管運動神経症状 | 動悸 | のぼせ | 顔のほてり | 冷え等 |
|
|
B)性機能症状 | 性欲低下 | 勃起不全等 |
|
|
|
|
C)泌尿器症状 | 頻尿 | 殘尿感等 |
|
|
|
|
D)知覚異常症状 | 手足の痺れ感 | 知覚鈍麻等 |
|
|
|
|
E)消化器症状 | 食欲不振 | 便通異常 | 腹痛等 |
|
|
|
F)運動器官症状 | 肩こり | 関節痛 | 筋肉痛等 |
|
|
|
G)皮膚・分泌系症状 | 発汗亢進 | 口腔内乾燥等 |
|
|
|
|
H)全身症状 | 易疲労感 | 全身倦怠感等 |
|
|
|
|
I)その他 | 筋力低下 | 体脂肪率の上昇 | 基礎代謝の低下等 |
|
|
パラノイア古い親 |
男性更年期の増悪因子
成人後男性ホルモンの減少に大きく関わっているのは年齢です。しかしアメリカにおいては70才を過ぎても40%以上の男性が性的に活動的である事という報告から、年齢以外の問題も考慮しなければなりません。男性更年期を増悪させる因子として以下の事があります。前述しました様に男性更年期の精神神経症状はうつ病に類似していますが、実際にうつ病が合併している事もしばしば認められます。またアルコールの摂取過剰や喫煙も症状の増悪を引き起こします。その他高血圧、糖尿病、肥満等は病気自体と同様にこの様な病気を引き起こす運動不足、過食等のライフスタイル自体が男性更年期の症状を悪化させます。また高血圧の治療に使用するお薬が勃起障害を引き起こす事があります。
男性更年期を増悪させる諸因子
@)うつ病をはじめとする精神的問題
A)アルコール摂取過多
B)喫煙
C)高血圧
D)薬物(降圧剤など)
E)肥満 or 飽食
F)運動不足
G)循環障害
男性更年期を起こし難い人
日常的に体を動かす職業の人は男性更年期になり難いことが知られています。このことは体を動かす事により男性ホルモンの分泌が誘導されていると考えられます。しかし日頃体を動かす職業や以前激しいスポーツをやっていて、急にやめてしまった人は逆に男性更年期障害が起こり易いことも知られています。
男性更年期を起こし難い職業
@)消防士
A)自衛官
B)体育教師
C)建築業
D)その他
男性更年期障害を引き起こしやすい人
デスクワーク中心で体を動かす事が少なく、事務職など創造性に乏しく日々決った仕事をこなす職業で、生きがいや趣味が無い方は男性更年期になる傾向が強い様です。体を動かす事も大切なのですが、人生の色々な事に喜びを感じられる事がより大切なようです。
男性更年期障害を引き起こしやすいキャラクター
1. | 性格 | 2. | 職種 | 3. | 生活習慣 | 4. | 生活環境 |
@ | ストレスに弱い | @ | 管理職 | @ | 外出が嫌い | @ | 通勤時間が長い |
A | 神経質で真面目 | A | 銀行員、税理士、事務職 | A | 運動が嫌い | A | 家族関係に問題がある |
B | くよくよ考えこむ | B | デスクワークが長時間 |
|
|
|
|
C | 人間関係が苦手 |
|
|
|
|
|
|
D | 生きがいや趣味が無い |
|
|
|
|
|
|
E | せっかちで几帳面 |
|
|
|
|
|
|
男性更年期になりやすいA型気質
1950年代にアメリカのFriedmanとRosenmanは人間の行動パターンをA型とB型の二つに分類し、A型気質を責任感が強く、几帳面で競争心が強く成功への強い欲求を持つとし、B型気質はマイペースで精神面の安定感を有するとしました。この分類ではA型気質の人は一般に社会的評価はB型気質の人に比較し高い傾向にあるものの、心筋梗塞や脳梗塞等の動脈硬化に由来する病気のリスクがB型気質の人に対して数倍高い事が解かりました。さらに男性更年期障害の出現する可能性も同様にA型気質の方に高いと報告されています。
日本人男性における男性ホルモン
日本人男性は元来男性ホルモンが少なく、黒人や白人に比較して少ないだけではなく、アジア人の中においても少ないと報告されています。このため加齢やストレスの影響を非常に受け易いと考えられています。逆に男性ホルモンが少ないが故に男性ホルモンの影響を受けやすい前立腺癌の発生が少ないと報告されています。最近国内において男性更年期障害の発症年齢が低下していると報告されており、社会環境の変化によるストレスの増加、運動不足や過食等のライフスタイルの変化により、ただえさえ少ない日本人男性の男性ホルモンが加速的に減少しているのではないかと考えらえています。街中に溢れる中性的な男の子の増加の原因は案外男性ホルモンの減少という具体的な原因が存在するのかもしれません。その他には先進� ��国を中心に若い男性の精子生産能力が著明に減少しており、その原因に欧米型社会におけるストレスとも、女性ホルモンの働きを持つ環境ホルモンの影響とも言われています。日本においても20代の男性の精子数は40代男性の半分程度とする報告があり、いずれにしても日本人男性にとって受難の日々は続きそうです。
男性更年期障害の診断
男性更年期障害の症状の程度には個人差があり、種々の症状を認めても男性ホルモンは正常であったり、また逆の場合もあります。男性更年期障害は単に男性ホルモンの減少した状態を言うのではなく、ホルモンの減少と共に症状を認める場合を言います。
社会でうつ病は何ですか?
1)問診法
間接的な診断法としては問診法があります。これは問診表に記載された質問から該当する症状を選択し、総合点から男性更年期の疑わしさを評価するものです。最近良く使用されている方法として横山らによる問診表があります。
男性更年期問診票
(横山博美らによる)
お名前 | 生年月日 | 年 齢 |
| 明・大・昭 年 月 日 | 才 |
※症状に該当する項目の点数を選んでください。
症状−1 | 無い | 軽度 | 中等度 | 高度 | |
1 | 不安・イライラ | 0 | 1 | 2 | 3 |
2 | 全身倦怠感 | 0 | 1 | 2 | 3 |
3 | うつ傾向 | 0 | 1 | 2 | 3 |
4 | 不眠 | 0 | 1 | 2 | 3 |
5 | 頭重感・頭痛 | 0 | 1 | 2 | 3 |
6 | 肩こり・背部痛 | 0 | 1 | 2 | 3 |
7 | 動悸・息切れ | 0 | 1 | 2 | 3 |
8 | 手や足の痺れ | 0 | 1 | 2 | 3 |
9 | 転職・離婚等のストレス | 0 | 1 | 2 | 3 |
10 | お酒の飲み過ぎ | 0 | 1 | 2 | 3 |
症状−2 | 週に1回以上 | 2週間に1回 | 月に1回 | 無し | |
11 | 朝の勃起 | 0 | 1 | 2 | 3 |
12 | セックスの回数 | 0 | 1 | 2 | 3 |
13 | 性欲の有無 | ある 0 | まあまあ 1 | わずか 2 | ない 3 |
症状−3 | ない | 軽度 | 中等度 | 高度 | |
14 | 尿が近い | 0 | 1 | 2 | 3 |
15 | 残尿感がある | 0 | 1 | 2 | 3 |
16 | 尿の切れが悪い | 0 | 1 | 2 | 3 |
*問診票の評価の仕方
各項目の合計が10点以上は男性更年期の可能性があり、18点以上の方は男性更年期がかなり確実と考えてください。
2)採血検査
男性ホルモンの中核をなすテストステロンの多くは性ホルモン結合蛋白と結合しており、活性を抑えられています。男性更年期の診断には実際に活性を有している遊離テストステロンの測定を行います。遊離テストステロンの基準値は5から21pg/mlとされていますが、男性更年期に該当する年齢では15〜16pg/mlです。この値を下回ると男性ホルモンの欠乏とする考えもありますが、通常10〜9pg/ml以下であれば男性ホルモンの欠乏と診断します。
参)遊離テストステロンの基準値(BML社による)
男性における遊離テストステロン | |||
年 齢 | 基準値pg/ml | 症例数 | 中央値 |
20〜29 | 8.5〜21.3 | 24 | 13.7 |
30〜39 | 6.0〜18.8 | 42 | 11.0 |
40〜49 | 3.3〜16.6 | 26 | 8.9 |
50〜59 | 6.0〜13.9 | 15 | 9.1 |
60〜69 | 5.2〜14.8 | 20 | 9.7 |
男性更年期の治療
男性更年期の治療にはホルモン補充療法を中心にいくつかの方法があります。
1.ホルモン補充療法
@)テストステロン補充療法(TRT)
注射や内服薬で不足した男性ホルモンを補充します。60才以上の方で男性ホルモンの欠乏が認められる場合は最初からこの治療法を選択します。男性ホルモン補充療法は最近抗加齢療法としても注目される様になりました。テストステロンの減少は血中コーチゾールを増加させて老化を加速させる事、またテストステロンは成長ホルモンの分泌を促す働きがある事、成長ホルモンは究極の若返りホルモンとして欧米で盛んに使用されている事などから一部の医療施設では男性更年期の治療としてばかりではなく、老化防止や若返りを目的に使用されています。
注射の場合筋肉注射を2週間から4週間に一度行います。内服薬は1日1〜2回の服用です。いずれも僅かですが肝機能障害や睾丸萎縮、前立腺腫大などの副作用の可能性があり、定期的な診察や検査が必要です。また同様に前立腺癌のリスクが僅かながら上昇しますので、年に一度はPSA*(前立腺腫瘍マーカー)の採血検査が必要です。
PSA*:前立腺癌の腫瘍マーカー。他の腫瘍マーカーがほとんど癌検診としては使えないのに比べ、PSAは前立腺癌の検診法として非常に優れいます。
A)DHEA
DHEAは性ホルモンであるTestosterone(男性ホルモン)やEstradiol(女性ホルモン)の原料となるもので、欧米ではサプリメントとして販売され、安価で安全性も高いため愛用者が非常に多いようです。しかしお薬の効果としては賛否両論あり、まだ一定の評価を得られているわけではありません。東京大学病院の美容外科で行われている若返り治療のなかでは有用なお薬であると判断しています。60才以下の方であればまずこのお薬を試してみても良いでしょう。国内で入手する為には医師の処方が必要です。
性ホルモンの合成
男性ホルモン補充療法と抗加齢療法
男性ホルモン補充療法(TRT)はいままでお話ししてきた男性更年期の治療法としてのみならず、男性における抗加齢療法の一つとして注目を集めています。男性の加齢による肉体的衰えである筋肉量の減少、体脂肪率の増加、骨量の減少、基礎代謝の減少、性機能の低下などはテストステロン減少の直接的効果として引き起こされますが、さらにテストステロンの減少とエストロゲンの不変もしくは増加という男性ホルモンと女性ホルモンのアンバランスが老化を加速すると考えられ、この状態が虚血性心疾患の危険性の増加を引き起こします。また老化を促進するインスリンとコーチゾールの分泌抑制は抗加齢療法の目標の一つですが、テストステロンの減少はコーチゾールの分泌を促すことが知られています。近年欧米で盛んになって きた成長ホルモンを使用した抗加齢療法でも多くは性ホルモンの併用を行っています。とくにテストステロンの併用療法はこれらのことからテストステロンの分泌量の減少は単なる男性更年期の原因と考えるのではなく、老化を加速する大きな要因であると考えるべきであり、このような意味でテストステロンを補充する事は抗加齢療法の一端と考えるべきでしょう。
生活療法
@)食事
高血圧や糖尿病等を引き起こす食生活は当然男性更年期の原因となりますが、症状の改善に有効な食事としてはヤマイモ、オクラ、ナメコ、ナットウ等の植物性のネバネバ食品という報告があります。これらはムチンという物質を含んでおり、ホルモンを活性化する働きがあり、男性機能を回復させたり、前立腺を柔軟にしたりする効果があるのだそうです。統計学的な論拠はありませんが、もともと健康に良い食品なので試してみる価値は充分にあると思います。一方アルコールは睡眠障害、肝機能障害、肥満、勃起障害、夜間頻尿の原因となります。不眠の為にアルコールを利用される方も多いと思いますが、アルコールは睡眠自体を浅くさせる上に男性ホルモンの分泌を抑制する為少なめにしていただく事をお薦めします。ただし� ��ルコールには血液中のコレステロールを改善させる働きがあり、全く飲まないよりも少量飲んでいるほうが心筋梗塞などのリスクが減少する事が知られています。ただしこのような効果が得られるのは一日量にしてアルコール換算で15gから最大30g(25g程度)まで、ビールであれば300mlから600ml、ほぼ缶ビール1本、日本酒であれば100mlから200mlほぼ1合程度です。これ以上は前述した悪い効果の方が前面に出てしまいますので、気を付けてください。
A)運動
体内に脂肪が蓄積すると男性ホルモンの働きが低下し、特に肥満は男性ホルモンにとって悪い影響を与えます。逆に日々の運動は男性ホルモンの分泌を刺激しますが、激しい運動はアドレナリンや血中コーチゾールを押し上げる事により老化を加速させる可能性があります。
B)睡眠
睡眠中に成長ホルモンが分泌されますが、このホルモンは究極の若がえりのホルモンと考えられており、男性ホルモンもこのホルモンの分泌を促す作用があります。しかし睡眠不足や浅い眠りはストレスとしてインスリンやコーチゾールを増やし、男性ホルモンと共に成長ホルモンの分泌も抑制します。心身ともにリラックスして充分な睡眠をとる事は疲労回復と同時にホルモンバランスを保つことに有効です。
最後に
日常生活に充分心がけていてもすべての男性が男性更年期を無事に乗り越える事が出きるわけではありません。気になる症状がありましたら、問診票をチェックしていただき、疑わしければ男性ホルモンのチェックをお受けになることをお薦めします。
0 コメント:
コメントを投稿