「5Sの視点で事故防止」
−しつけには納得が必要だとわかりました。では、医療機関に勤務している人が、トップに医療安全に必要な「あること(例えば改善活動)」を納得させたいとします。高原さんだったら、まずどうしますか?
例えば、5S活動を納得してもらいたかったら、既に5Sを実行していて、いい見本となる同じぐらいの規模の医療機関へトップを連れて行きます。その際に、相手の医療機関のトップにも出てきてもらうなどの根回しが必要かもしれませんが、とにかく見てもらうのが一番です。
−納得が得られたら、その次にはどうしたらよいでしょうか。
ルールを作ることです。例えば、「整理」に関するルールでは、1年以上たったものは捨てる、というような整� �の簡単な基準、捨てるためのフローチャートを作る。ルールが設定されていないと、捨てたことの責任を追及されるため、こわくて捨てられません。
そして、確実に不要なものを捨てるためには、不要と現場から提案があった場合には、捨てる判断(意思決定を)を誰かがしなくてはいけない、というルールにより捨てるしくみを構築することがポイントです。また、どの場所を誰がどういうタイミングでチェックするかというルールなども決めておくと効果的です。
−ルールを決めてもそれを守らせるのが難しいところです。
ものの置き方の例でいうと、「棚の上に物を置かない」「床の上に直置きしない」「表示してあるところにだけ物を置く(表示のないところには置かない)」そうしたルールを目につ� ��ところに明示しておきます。すると、注意する方もそれを指差して「これがルールですよね」と注意しやすくなります。ルールを設定したら、徹底的に守らせることです。例外は作らない。一度例外を認めると、次々に違反してしまいます。どうしても守れない場合はその理由を聞きだし、原因を究明し、ルールを改善することも考えていきます。
−納得すれば本当に習慣づくのでしょうか。
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例えば、車のシートベルトは殆どの人が毎回きちんと締めます。交通ルールを守っているのです。しかし、スピード違反を一度もしたことがない人はゼロに近いのではないでしょうか。捕まる、捕まらないは別として、時速30km制限の道路で、制限速度を守って走っている人は少ないと思われます。なぜシートベルトは守って、スピードは守らないか。それは、シートベルトをした方が安全というのは納得しているからです。しかし、時速30km以下で走らないと安全ではない、というのはあまり納得していないのです。人間、本来納得すれば実行するようになるのです。
しつけの徹底した組織を作ろうとしたら、守るべき行動基準、ルールを� �確化することが大前提です。またルールを作っても、それが皆に納得されなければダメです。なるほどな、やっぱり大事だな、というふうに納得されると、行動に移されます。そして、人間はどんなに面倒なことでも、それをやり続けると習慣づきますので、習慣づくまでやらせることが大切です。
つまり、しつけの展開で大切なポイントは習慣づけることなのです。習慣づけるまでの流れをまとめると次のようになります。
納得させる
↓そのためには
あるべき姿を明確にする(上手くいっている例を見せ、実感させる)
↓そのためには
ルールを設定する(あるべき姿を実現させるためのルールを作る)
↓そのためには
ルールと責任を明確にする(設定し� �ルールは目につく場所に表示、責任の所在も明確に)
↓そして繰り返し行動させ
習慣づける
掘5Sの実践
−この記事を読んだ会員の方が実行したいと思ったら、何から始めたらよいでしょうか。
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まずは5Sの第一「整理」でしょう。初めに挙げた「整理」の定義を思い出して下さい。とりあえず要らないと思うものを捨てることです。3ヶ月ぐらいかけて、自分の責任範囲内の要るものと要らないものを分けて、要らないものを躊躇せず徹底的に捨てること。これが一番です。それも自分ひとりだけでやるのではなく、役割分担を決めて、周りにも協力させて捨てることです。誰か一人だけがやってはダメです。全員が参加してやらないと。しつけを徹底するためには、まずは見えるところの環境整理。そういうところから、職場全体が変わっているんだよ、という雰囲気を作っていくことが大事です。
−医療機関の中には長期間保� �が必要なものも多く、徹底的に捨てるのは難しい気がしますが。
確かにカルテや看護記録などのように長期間捨てられないものもあります。しかし、いろいろなところに指導に行ってみると、使わないのに捨てていないものも意外とあるのです。例えばダンボール。何かに使えるのではないか、として結構とってある。また、脱脂綿などの備品は、用度課から必要な分だけもってくればいいのに、必要以上に多く持ってきている。必要以上のものは不要品と同じです。元の用度課に戻すべきです。何年も全然使っていないものもあります。患者さんが退院するときに事務課へお礼として贈った物なども結構あります。「患者さんからせっかく頂いたものだから、なかなか捨てられないんですよ。どうしたらいいのかわからない� ��です。」という声もあります。そこで「思い切って捨てちゃいましょう」と決めました。もちろん、頂いてすぐにではなく、何ヶ月間も誰も家に持ち帰らなかったようなものは割り切って捨てる、ということにしたのです。
−研修は具体的にどのような方法で行っているのですか?
しつけの指導を依頼されることが多いのですが、5Sのレベルアップということで依頼を受けることにしています。なぜかといえば、5Sにしつけのレベルが現れるからです。しつけのバロメータが5Sであり、組織の体質そのものを現していると考えられるからです。
成功したヘルス·センター·マネージャになる方法
「整理」の実習では、まず一度自分の職場なり現場へ行ってもらい、捨てていいものをリストアップしてもらいます。また、整理を始める前の状態をデジカメや写真に撮っておくことをお勧めします。改善後の写真と比べると変化が一目瞭然です。
「整頓」の実習では、キャビネットに表示をつける等、整頓のイメージを模造紙に絵で書いてもらいます。こういう状態になったら、整頓が出来ているということだ、という整頓のあるべき姿を共有化するのが狙いです。整頓が確立できた棚、キャビネット、作業台、書棚をイメージさせるのです。そして作ったイメージを見て、皆で議論しあい、レベル合わせをしてから発表してもらい� �私がコメントをします。
研修後、少したってから、現場のチェックに行きます。それを繰り返すとだんだんイメージと現実が合ってきます。
また、チェックにいった際には、どんなにひどくても1箇所はほめるようにしています。それから言うべきところを注意します。
一生懸命やっているところは、いろいろな場所を見てもらおうとしますので、すぐにわかります。逆にそうでないところは、チェックに行っても積極的でないですね。
−予算上、研修やチェックを外部の人にお願いできない場合はどうしたらよいでしょうか。
異なる科、部署どうしで、お互いに交換して見ることでもいいと思います。他人の目でチェックすると、自分の目では気づかない点がチェックされます。
−研 修で指導を行った後の反応はどうですか?
「5Sをやってみて本当に良かった」という声が多いです。以下は、実際に行った病院のからの報告です。
- 見た目もきれいになり気持ちが良くなり、職場が明るくなった
- 仕事がしやすくなった、仕事でのムダな動作が減少した(探さない・取り出しやすい)
- チームワークが良くなり仕事が楽しくなった
- 看護部では「ヒヤリ」とするような状況がかなり減少した
- 新しいことがスムーズに行えた(外来系の引越しの場面など)
今までは何か問題があっても、病院が悪い、上が何もやってくれない、と管理者の責任にしたり、せまいから、予算がないから、忙しいからと、できない言い訳ばかりをしていたところも、5Sに取り組んでみると、「こんなにいらないものがあったのか」と気づくのです。今までスペースがないとあきらめていたが、ないのではなく作っていなかったのだ、とわかるのです。スペースの使い方を考えていなかったり、エリアを決めていなかったり、使わないものが便利な場所に置いてあったり。それらを全部見直したら、これだけスペースが使えるんだ、と。実際、5Sをやった後に電子カルテを導入し、端末を入れた病院がありましたが、まさに5Sをやっていなければ新しい端末を置くスペースなどとてもなかったところで� ��。
不満もエネルギーの1つです。それを愚痴で終わらせるのではなく、智恵へと変えていくことが重要なポイントですね。
−うまくいかなかった例はないのですか?
トップの理解が得られないところはやはりうまくいかないです。また、せっかく一生懸命やってうまくいきかけていても、リーダーとなっていた担当者が異動するとまた元に戻ってしまうことがあります。組織全体で取り組まないと、部分的、一時的には実行できても維持することは難しいのです。
最初はどこでも抵抗感や反発があるでしょう。でも実行して結果が出ると変わってきます。環境が良くなって仕事がやりやすくなったり、皆が協力して職場がまとまってきたり、ものが使いやすくなったりすると、姿勢が変わってきます。最初は多少押しつけでも、まずはやらせることです。やれば必ず結果が出て変わってきますから。狭い範囲でもいから、とにかくやってみて実感、納得してもらうことです。
また、他から「やってみてよかった」という話を聞くこともいい刺激になります。
−では最後に、会員の皆様に5S効果を納得してもらえるような画面をご紹介いただけないでしょうか。
次の写真は福島県の竹田綜合病院のものです。同病院は5Sを導� ��して、3年目です。竹田綜合病院のご好意により写真を掲載させていただきます。
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